最初はね…ただ、一度だけの代理だと思ってたの。
         だけど、毎回毎回届けてくれるのは彼。

         差出人の新一からは、何の音沙汰もなくて…
         たまにかかってくる電話やメールだって淡白なものばっかり。

         何で、彼なんだろ…。
         毎回、事件で大阪からわざわざこっちに来てるとは思えないし…。

 

         あたしにとっては、ずっと不思議に思ってたことだった。


 

   Title郵便屋の曇れる時 〜蘭side


        “ピーンポーン”
        客人を告げるチャイムの音にあたしは玄関のドアを開けた。

         「あっ、服部君。いらっしゃい。」
         「よー。 今日も、工藤から預かってきたで?」

        そう言って、にっこり笑う彼。

         「あ、ありがと。ったく…新一も自分で来たらいいのに」

        忙しいんだとは分かってても、ちょっと不満だって感じることもある。
        文句を言いながらも、やっぱりちょっと嬉しい気持ちもないわけじゃないんだけど…。

         「ま、事件があるんやから、しゃぁないんとちゃう?」
         「いっつも『事件・事件』ばっかで…ホント、何やっているのよ アイツは」
         「あはは…」
         「あっ…、服部君。ソファに座って寛いでいて?お茶用意してくるから」

        苦笑を浮べてる彼に微笑むとあたしはキッチンに向かった。
        お湯を沸かしながら、渡された封筒の中を見る。

        白い便箋に書かれた数行の文字。

         「……また…?」

        もぉ、慣れたこととはいえ…やっぱり、寂しい…。
        できない約束なら、しなきゃいいのに…って。

         「よしっ」


        さっきまでの気持ちを悟られないように…気持ちを切り替えると、彼の待つリビングへと
        お茶のセットを持って戻った。

         「お待たせ はい、どうぞ…」
         「おーきに…?」

        彼の言葉に微笑むも、やっぱり気を許すとどこか一点を見つめてしまう。


         「……何かあったんか?」

        現実に戻される予期せぬ言葉。


         「えっ?! そ、そんな事ないわよっ」
         「…もしかして、手紙。変な事でも書いてあったんか?」
         「……っ」


        偶然…よね?
        あたし、そこまで沈んだ顔なんて見せてないと思うし…。


         「ち、違うのよっ…た、ただ…」
         「…ただ?」
         「ん。何でもないわっ。気にしないで、ね?」

       慌てて、否定するあたしをただ黙って見ている彼。
 
         「ホントに何でもないんだからっ」

       そうは言っても…相手は西の名探偵と言われてる相手。
       新一同様、あたしの嘘なんてお見通し…なのよね。
       彼は依然としてあたしを見てる。

       そんな視線に耐えられず俯いたその時だった。
       “ガタッ”とソファから立ち上がる音とほぼ同時にあたしの視線は彼の胸でふさがれる。


       ……どーゆーこと……?
       理解するまでにそう時間はかからなかった。


         「あんな奴やのうて…俺にしときぃ」


       耳元で聞こえる彼の声。
       あたしを抱き締める彼の手は…力強く…でも、何となく暖かくも感じた。
       それでも、頭のどっかでは『ダメっ』そんなことを考えてもいた。


         「ちょ…ちょっと、服部君?!」
         「俺…ずっと好きやってん。姉ちゃんの事が」


       ……嘘、でしょ?…あたしを好き…って、だって服部くんには……。
       ただ、呆然として…抵抗することも忘れてた。
       もぉ、何が何だか分からない…でも、彼の表情が真剣なのだけは見てとれる。


         「だから…俺にしときぃ。姉ちゃんの事、泣かしたりせぇへん だから…」


       …服部くん…どうして?どうして…そんな事言うの…?
       彼の腕の中で…そう、何度も問いかける。
       …そんなこと言われたら…あたし…。
       心の中で呟く言葉とは裏腹に…あたしは…、
       真剣な表情であたしを見る彼を真っ直ぐ見…そしてにっこり微笑んで


         「ありがと。だけど…新一の事で泣いたりしてないから、大丈夫よ」

       そう、告げた。


         「………俺、工藤って一言も言ってへんで?」

       そう言って、ニヤリと笑う彼。


       えっ……?冗談…だったの?


         「ぶはっ…顔、真っ赤やで 面白いなぁ」

       そう言うと、そっと腕を放し、口許に手を当てクスクスと笑ってる

         「もぉ〜…服部君の意地悪っ!!」
         「あぁ、冗談やって。でも、元気出たやろ? 元気なさそうやったから…」
         「……ありがとう」

      そう告げて彼に微笑んで見せたものの…あたしの心の中では葛藤が起こってた。
      ちょっとだけ、深呼吸すると、
      お茶を変えることを口実に、キッチンへと向かった。


         「……もぉ、どうしたらいいか…わかんなくなっちゃうじゃない…」
      新しくお茶の準備をしながらポツリと呟く。
 


      多分、気づいたのはもっと前から…。
      もちろん、新一からの連絡を楽しみに待っているのも嘘じゃない…。
      でも…でもね、やっぱり……会いに来てほしいじゃない。
      事件で忙しいのも分かってる、そんなの理解してるつもりだった…。

      だけど、だけど…こんなの続けてたら…あたしは、きっと…彼に想いが傾いちゃう。
      んーん…多分、傾いてる…。

      ほんの数時間前まではそんなこと思ってなかった。
      たった今…確信しちゃったんだもん…あたし、新一の口からあんな言葉聞いたことないんだよ?

      でも、ダメ…よね。
      きっと言えずに終るんだろうな。
      あたしの……ホントの気持ちは…。


                     Fin


 


         +++ 言い訳 +++ 

        なぁんか…蘭sideってことで書いてはみたものの…朔也さん、ごめんなさいッ。
        まとまりないですね…。

        けど、書いてて楽しめたのは事実です。
        また、機会があれば…逆サイド書かせてくださいねっ(笑)

        読んでくださった方、ありがとうございました。

                                               流香

 

BACK

 

 

inserted by FC2 system