いつか きっと・・・
by,ruka
それは、新一と二人で過ごしているある日の夜・・・・。
「まだ、アイツが気になるのか?」
真っ暗な部屋の中でキャンドルに照らされながら新一が呟いた言葉。
「えっ?・・・・あっ・・・・やだ、もぉ気にしてないわよ・・・・」
そうは言ってみたものの、突然現れて突然音沙汰なくなった彼を気にしてないわけがなかった。
元々はお父さんの依頼関係の人だったんだけど、何度か言葉を交わすうちに自然と惹かれてた。
もちろん、新一にはそんなあたしの状況は筒抜けで何も言わずに見守ってくれてはいたんだけど、
ずっと「関わるな」とは忠告してくれてたのよね。
「バーロォ。気にしてねぇって顔かよ・・・・どーすんだ?まだ連絡取るつもりなのか?」
「あはは・・・・連絡取るも何も・・・・元々関係なかったんだし・・・・ね?」
「ったく・・・・関わるなって言ったのによ」
呆れながらも優しく言ってくれる新一に、何だかどうしようもない気持ちで一杯だった。
それから数日後。
学校から帰ってきてポストを空けるとあたし宛の郵便が目についた。
「差出人の名前ないわ・・・・誰なんだろ」
そうつぶやくと部屋に入って着替えるよりも先にその封筒を手に取った。
封筒の中に入っている一枚の便箋。
そこに刻まれた文字に、あたしの手は震えた。
探偵事務所に訪れていた彼が怪盗キッドの変装だったこと、だから・・・あの姿では二度とあたしの
前には現れないという・・・・簡潔な文章。
そして、数日間ありがとうの文字。
“pipipipi・・・・・”
手紙を見つめただ呆然としてるあたしの意識を携帯のベルが呼び戻した。
液晶ディスプレイに表れる『新一』の文字。
「新一・・・・どうしよう・・・・今出たらあたし絶対電話口で泣いちゃう・・・・やっぱり、後でかけなおした
方がいいわよね・・・・アイツ、そういうとこ鋭いし・・・・」
携帯を机に置いて窓の外を見る。
「・・・・新一?!」
外からこの窓を見上げ携帯を耳に当てている新一の姿が目に飛び込んできた。
“pipipipi・・・・”
再び鳴り出す携帯を震える手で取り、通話ボタンを押す。
「・・・・新一・・・・?」
『ったく・・・・何で出ねぇんだよ?』
「・・ご・・ごめん・・・・」
窓から表情が見えるのが怖くて窓に背を向けて呟く。
『・・・・何か・・・・あったンだな?・・・・例のヤツと』
「えっ・・・・?」
『バーロォ・・・・オメーがどれだけ隠そうとしてもな、分かっちまうんだよ。機械越しに聞いてる声
だけでも、しっかり伝わってくンだよ・・・・震えてるってな』
「・・・・・し・・・ん・・・・いち・・・・っ」
声にならない呟きで窓の外を見ると、新一の姿がなくなってる。
心臓がしめつけられる思いで・・・・あたしは繋がってる受話器に呼びかけた。
「・・・新一・・・・・?」
「ったく・・・・何情けねぇ顔してンだよ・・・・」
事務所のドアが開いたと同時に背中に投げられた新一の声。
「・・・・新一っ」
携帯を閉じてあたしの方へ歩いてくる新一の姿に思わず走り寄ってしがみついてた。
「蘭っ?!」
それ以上は何も言わず・・・そっと抱きしめていてくれる新一の腕の中で・・・あたしは泣きつづけた。
今までのことを忘れられるくらいに・・・・。
「どうだ?落ち着いたか?」
「んっ・・・・ゴメンね・・・・・。ホントなら・・・一番聞きたくない話なのにね・・新一にとっては・・・」
「バーロォ。オメーのことで聞きたくねぇ話なんてあるワケねーだろ?・・・・むしろ、聞けてスッキリした
くらいだぜ?」
「えっ・・・・でも・・・・」
「アイツとの関係がこれでスッキリしたんだからな」
「・・・・ん。そうだよね・・・・これで良かったのかな・・・・って・・あたしも思うの」
「・・・・そーは見えねぇけど?」
「・・・・ホントよ?・・・そりゃ、すぐに忘れるって・・・できないかもしれないけど・・・・何だか、疲れちゃった
し・・・・目が覚めたっていうか・・・・ね?」
「そっか・・・・なぁ、蘭」
「ん・・・・?」
「・・・・戻って来いよ」
「えっ・・・・?」
思いがけない言葉に新一を見る。
「もういいだろ・・・・戻って来いよ」
ちょっとぶっきらぼうだけど、優しい重みのある一言にあたしは微笑んで頷いた。
おしまい♪