DESTINY
by,ruka
−米花駅前−
「よっ、蘭。この電車だったのか?」
改札を抜けるあたしの後ろから聞こえてくる、聞きなれた声。
「あっ、新一もこの電車だったんだ?ホント偶然ね」
にっこり笑いながら言ったあたしの言葉に新一は少し不満気な表情で歩き出した。
今までだって、連絡もなしに駅でバッタリとか、家の前で偶然会うなんてことは何度もあったこと。
仕事上、普段からひっきりなしに鳴ってる新一の携帯こともあって、あたしは電話なんて殆どかけないしメール
さえもひかえてることが多くなってたくらいなんだもん。
突然ばったり出会うなんてことは毎度のことだったのに・・・・ちょっとした出来事から新一とあたしの間で「偶然」
って言葉が少しだけ違う言葉になりつつあったのよね・・・・。
それは、数日前の夜のこと。
−毛利探偵事務所−
「ただいまー。お父さん?帰ってないの?」
シーンと静まり返る事務所のドアを開けて電気をつけると、何となくいつもと様子が違う。
何だろう・・・・この胸騒ぎ・・・・。
階段を上って、家の方にも行ってみるんだけど、やっぱりお父さんの姿はない。
時計を見ると1時半を過ぎている。
・・・・お父さんが朝まで家を空けることなんて、いつものことじゃない・・・・何焦ってるのよ、あたしったら・・・・。
マージャンなら明け方に電話あるだろうし、事件で出てるにしても落ち着けば連絡はくれるはずなんだから、
何も心配することはないのよ。
そんなことを考えながらも、まったく眠れないまま窓の外は明るくなりはじめてる。
「少し、散歩でもしてこよっかな・・・・」
薄いジャケットを羽織って、家近くの公園に向かって歩いていく。
缶コーヒーを買って公園のブランコに座りながら朝のちょっと冷たい風に当たりぼぉーっとしている時だった。
“カチャ”
隣のブランコに人が座る音で我に返ると、音のほうに目を向けた。
「しっ・・・・新一っ?!」
「よっ、こんなとこで会うとは、偶然にしちゃ凄ぇよな」
「いっ・・・・いつから、ココに居たの・・・?」
「ちょーど、3分前。オメー呼んだのに気づかねぇからさ、しばらく眺めてた」
「やっ・・・やだっ、眺めてるとか・・・・人が悪いわよっ?!」
「たかが3分だろ?オメーの顔眺められるなんて、そう滅多にできねぇんだぜ?」
「でもっ・・・・」
「んで?こんな時間に何やってんだよ?」
「新一こそ・・・・家とは反対じゃない・・・・」
「事件片付けて家に帰って寝るつもりだったんだけどよ・・・・何となくこっちまで足を伸ばしたらオメーが
見えてさ」
「あっ・・・・あたしもっ、あたしも眠れなくてね?・・・・散歩してたのよ?!」
「なっ?偶然にしちゃ、出来すぎ・・・・だろ?」
「うんっ・・・・これって」
「運命・・・・かもな」
結局、お父さんはお母さんの所に行っただけで・・一応、あたしの胸騒ぎも外れだったわけじゃないんだけど・・。
新一との偶然は・・・・運命なのかな・・・・ってちょこっとだけ思えるようになったのよね。
ボッーとそんなことを考えながら家までの道のりを歩いているあたしを現実へと戻す新一の言葉。
「蘭、明日は?」
「あっ・・・・お休みよ?」
「おっちゃんは?」
「今日は帰れない・・・・って朝出かけてったけど・・・・」
「んじゃ・・・・このまま、俺ン家直行でも問題ねぇよな?」
「えっ・・・・あ・・・・でも、あたし・・・・このカッコ・・・・」
仕事帰りで着ているスーツを指差すあたしのしぐさも無視状態でお構いナシに続ける新一。
「平気、平気。明日の昼には、一旦解放してやっから、晩飯よろしくなっ」
「明日の昼?!・・・・って、新一、仕事あるんでしょ?!」
「ンなもん、臨時休業にするさ」
「・・・・探偵に休みはないんじゃなかったの?」
「オメーとの時間も、仕事のうち・・・・だからな」
にっこり笑う新一の姿に、返す言葉も見当たらなくて思わず微笑み返して工藤家の門をくぐった。
そう・・・・新一との偶然の出会いは・・・・きっと、運命・・・・なのよね。
おしまい♪