ホントの気持ち

                                                         by,ruka

 

     「えっ・・・・また、事件なの・・・・?・・・・ん・・・・わかった・・・・」

 

 映画館の前でため息をつきながら、ケータイの通話スイッチを切ると、ぼぉーっと駅に向かって歩き出した。

 何度約束しても事件で邪魔される、あたしたちの予定。

 もちろん、わかってる・・・・新一にとっては、事件が何よりも大切だってこと・・・・。

 それを、邪魔しないで待ってるって決めたってことも・・・・。

 でもっ・・・・でもねっ、新一。

 ・・・・あたしにだって、傍に居て欲しいって思うこと・・・・あるんだからね?

 待ちたくないことだって・・・・あるんだから・・・・。

 

     「あれ?蘭ちゃんじゃん」

 聞き覚えのある声に振り返ると、あたしに向かって歩いてくるのは快斗くんだった。

     「何、こんなとこで?あっー、もしかして新一と待ち合わせ?」

 にっこり笑いながら問いかけてくる快斗くんの言葉に、何だか力が抜けるのを感じた。

     「・・・・ん・・・・でも、事件みたいでね・・・・これから帰ろうかなって・・・・」

     「そっかー。アイツ、蘭ちゃん放ってまた事件に行っちゃったのか」

     「ん・・・・仕方ないわよ。・・・・新一が好きでやってることなんだもん・・・・あたしには止められない

      わよ・・・・」

 泣きたいのを我慢して、ちょっと微笑んで返すあたし。

     「けどさ・・・・そんなんじゃ、疲れちゃうっしょ?たまには引き止めるくらい、ワガママになっちゃって

     もいーんじゃね?」

     「あははっ・・・・いいの、こーやって待つもの・・・・デートのうち・・・・だもん」

 作り笑いも快斗くんには見抜かれてるみたい。

     「ったく、そーやって蘭ちゃんが待ってたら、アイツ調子に乗っちゃうんだぜ?」

 呆れ笑いをしながらも優しく言葉を選んで接してくれる快斗くんが、ポケットから何かを取り出すと、そっと

 あたしの手にそれを握らせ、

     「一日限定のチケット。この日だけは、新一にワガママ言ってみな?いっくら、アイツでもキャンセル

     は出来ないからさ」

     「んっ・・・・ありがとねっ」

     「んじゃ、頑張ってな」

 あたしの肩を軽く叩くと、改札を抜けて電車に乗っていった。

 

 ・・・・トロピカルランドの214日限定ペアチケット・・・・。

 

 バレンタインデーの日だ・・・そうよね、この日ならきっと・・・新一だって・・・でも、わかんないじゃない。

 今までだって、何度もキャンセルだったのよ?

 事件は・・・・大切な日だって起こってるんだもん・・・・。

 不安な気持ちを抑えつつも、新一の家のポストにペアチケットの一枚を入れた。

 

 あれから3日・・・・。

 何となく、連絡しづらくて新一と連絡を取ることなくバレンタインデー前日を迎えてる。

 大学のキャンパスで講義を聞いてても上の空のままで・・・・やっぱり、連絡とってみようかな・・・・。

 けど、事件だったら・・・・電話しちゃ悪いわよね・・・・。

 そう思いながら、携帯を握った瞬間だった。

 “pipipipi・・・・・”

     「あっ・・・・はい」

     『蘭?・・・・オレだけど・・・・』

     「あっ・・・・うん」

     『この間の、約束以来連絡ねぇーから・・・・何かあったのかと思ってよ、元気・・・・だよな?』

     「あっ、うん・・・・元気よ?新一、忙しそう・・・・だったから、何となく・・・・ね?・・・・新一、今

      どこに居るの・・・・?」

     『あー・・・、今北海道でさ・・・あれから、ずっと帰れなくて、今夜遅くには帰れそうなんだけどな?』

     「あれから、帰ってないの?!」

     『あぁ、何かあったのか?』

 それじゃ、チケットのことも知らないんだ・・・・。

     「あっ・・・・んーん、何でもないの・・・・。今日の夜には帰ってこれるの?」

     『まだ・・・・微妙なんだけどな?』

     「そっか・・・・寒いから、気をつけてね?」

     『サンキュ、オメーも腹出して寝るんじゃねーぞ?』

     「もっ・・・・もぉ。そんなことしないわよっ」

 結局、何も言えずに電話を切った。

 ・・・・ホントにこのままでいいのかな・・・・。

 ホントのあたしはどうしたいんだろう・・・・。

 そんなことを考えながら、眠れずに朝を迎えた。

 あたしの気持ちとは裏腹に、外の天気は快晴。

 残された一枚のチケットを持って・・・・あたしは、トロピカルランドへと向かっていた。

 

 何で、新一の家に寄らないのよ?

 何で、一緒に行こうって言えないのよ・・・・?

 夜中に帰宅して眠っているかもしれないから?

 まだ、帰ってなかったらホントに惨めになっちゃうから?

 このまま・・・・何も言えずに居るほうがずっと・・・・惨めなのに・・・・。

 

 係員さんにチケットを見せると、バレンタインイベントで集まってるカップルの中をアテもあく歩いてるあたし。

 やっぱり、来なきゃ良かった・・・・かな。

 

 高校の頃、来た噴水や展望台・・・・を、歩いてるうちにあたりはすっかり暗くなってる。

 

 “ ヒュー、ドーン ”

 

 イベントで打ち上げられる花火をベンチに座って、眺めてるときだった。

 

     「あっれー?蘭ちゃんじゃん、新一は?」

 一人で居るあたしを不思議そうに見ている快斗くんと青子ちゃん。

     「あっ・・・・なんか・・・・はぐれちゃって・・・・」

 ちょっとだけ笑って返すと、どっかに走っていく青子ちゃんを見送った快斗くんが近づいてくる。

     「まーた、無理して笑っちゃって・・・・新一のことだから、事件に飛んでっちゃったか、二人の

      間に事件が起こっちゃってるか・・・・さしずめ、後者ってところ?」

     「・・・・ごめんね・・・・?せっかくチケット貰ったのに・・・・」

     「なーに、言ってんだよ。オレはあまり物を渡しただけ。謝ることなんて全然ないっしょ?

      ・・・・んで?ここに一人で来ちゃったってことは、連絡つかなかったのかな?」

     「ん・・・・連絡っていうか・・・・きちんと、伝えられなくて・・・・」

     「ったく、連絡とってみなよ?アイツ、事情知ったら飛んで来ると思うよ?」

     「けど・・・・」

 あたしを、優しい眼差しで見ていた視線が、一瞬あたしからそれる。

     

     「ったく・・・・オメー何やってンだよ?」

 

 息を切らしながら近づく声に思わず振り返るあたし。

     「・・・・新一・・・・・・」

     「ったく、ホント世話がやけるよな、んじゃ、オレは行くね」

     「あぁ、悪かったな。快斗」

     「んや、オレは何もしてないって(笑)・・・・っと、新一に返しとくよ。オレ達はオールで楽しんでくからさ」

 

 “チャリーン”

 

 快斗くんから新一へ投げられる車のキー。

 新一の車・・・・快斗くんに貸してたんだ・・・・。

     「あぁ、悪ぃな」

     「んじゃね」

 

 どこからか、戻ってきた青子ちゃんと仲よさそうに歩いていく二人を見送って・・・・ベンチに腰掛ける。

     「・・・・おぃ、蘭・・・・オメー、昨日何も言ってなかったよな?」

     「・・・・だって、新一、忙しそうだったし・・・・家に帰ってなかったんじゃ・・・・チケットのこと知らない

      んだな・・・・って・・・・思って・・・・」

     「バーロー。ンなこと・・・・言わなきゃわかんねぇーだろーがっ」

     「・・・・言いたかったわよっ・・・・言おうって思ったわよっ!・・・・でも、またキャンセルになるの嫌だった

      んだもんっ・・・・だったら・・・・こうやって待ってるほうが・・・・」

 

 我慢してた涙が一気に流れてくる。

 ダメ・・・・泣かないって決めたんじゃない。

 

     「悪ぃ・・・・オレのせい・・・・だよな」

     「違うのっ、新一を責めたくて言ってるんじゃ・・・・」

 

 それ以上何も言わず、そっと抱きしめてくれる新一の手が・・・・なんとなく震えてるのがわかる・・・・。

 

     「・・・・新一・・・・これから・・・・どうするの・・・・?」

 沈黙をやぶりたくて、思わず出た言葉。

     「・・・・どっか、行こうぜ?・・・・蘭の為にオレの横の席は空けてあんだからよ」

 にっこり微笑みながら車のキーを揺らしてる新一に・・・・なんだか、少し楽になった気がして・・・・。

     「あははっ・・・・あたし、新一が来る前・・・・歩いて帰ろうか悩んでたのよね・・・・。でも、快斗くん

      と会ったおかげで思いとどまって良かった」

 少しだけ、ホントの気持ちを打ち明けられたあたしの言葉に、突然新一の表情が真剣な表情に変わる。

     「・・・・オメーな、いっくら電車ねぇからって、こんな時間に一人で歩いてるヤツがあるかよっ!・・

      ・・何のためにオレの車があると思ってンだよっ」

     「えっ・・・・あ・・・・ごめんっ・・・・今日は新一が送ってくれる・・・・んでしょ?」

     「あたりめーだろ?・・・・ったく、ホラ、時間もったいねぇーから行くぞ?」

     「んっ」

 結局、あたしには・・・・今のままこうやって待ってるのが一番なのかなって思った。

 あっ・・・・でも、今度はちょこっとだけ・・・・ホントにちょこっとだけ、ワガママになってみようかな。

 

                                                おしまい♪

 

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