パートナー 〜番外編/賭け〜

                                       by,ruka

 

   それは夏休みも迫った、ある日曜の午後。

   新一の家に遊びに行ったあたしは、いつもの通り新一の挑発につい乗っちゃってオセロなんかを

   やることになった。

   あたし・・・・オセロって苦手なのよね。

   どうせ遊びなんだしって思ってその勝負を受けることにしたんだけど・・・・。

     「なぁ、蘭。この勝負俺が勝ったら何してくれる?」

     「えっ・・・・?」

     「いいじゃん、賭けようぜ?」

     「嫌よ、賭けたら負けたとき何かしなきゃいけなくなっちゃうもん」

     「自信ねぇんだ?」

   そう言って意地悪そうに笑う新一。

     「そんなことないわよっ!?」

   そうは言いながらもあたしは負ける確信の方が強かった。

   なのに、つい強気なこと言っちゃうのよね・・・・。

     「んじゃ、いいよな?」

     「・・・・わかったわよ、負けなきゃいいんだもん。その代わりあたしが勝ったら、あたしの言うこと

      聞いてよね?」

     「おう、いいぜ?俺が勝ったらその逆な?」

   結局、新一に乗せられたままその勝負は始まったんだけど・・・・。

   結果はみごとにあたしの負け。

     「勝負あったな。さぁて・・・・何してもらおうかな」

     「い・・・・いいわよ、約束だもん・・・・」

     「んじゃ、夏休みの8月一ヶ月の間この家の家事手伝いってのどーだ?」

     「えっ・・・・毎日通うの!?」

     「いや、住み込みで」

     「そ・・・・それって・・・・まさか・・・・」

     「そっ、そのまさか。同棲ってやつ」

   し・・・・新一ったら分かって言ってるの・・・・?

   新一は優しそうな瞳でにっこり微笑んでる。

     「蘭に拒否権ねぇんだし・・・・いいよなぁ?」

     「・・・・う・・・・うん・・・・」

   なんか、恥かしくて新一の顔すらまともに見れなかった。

   こんなストレートなこと新一が言うなんて・・・・。

 

   そして、約束の8月が来たんだけど・・・・。

   “ピーンポーン”

     「よっ、母さんの部屋あけてあっから勝手に使っていいからな」

     「うん・・・・」

   ドキドキしながらリビングに入ったその瞬間。

     「よぉ、蘭ちゃん。待ってたで」

     「服部くんっ」

     「こんにちは、毛利さん」

     「よっ、蘭ちゃん」

     「白馬さんに快斗くんまで・・・・どーゆーこと・・・・?」

     「俺ら、夏休みの間ここで居候させてもらってんだよ」

     「ってことは・・・・」

     「その通り、頼んだぜ?蘭」

   ・・・・思わず絶句だった。

   新一にしてはストレートに言うと思ったのよね・・・・しかも、これじゃみんなの食事作るために

   いるようなもんじゃない。

     「新一、話が違うじゃないっ・・・・あたしは・・・・」

     「どこが違うんだよ?俺は『この家の家事手伝い』って言ったんだぜ?ま、安心しろ。コイツ等から

      は守ってやっから」

     「そーゆー問題じゃなくて・・・・」

   こうして、とんでもない同棲生活は幕をあけたのでした。

 

     「蘭ちゃん、俺魚ダメなんだよ。よろしくな」

     「魚?・・・・ん、わかったわ」

 

     「毛利さん、申し訳ありませんが夕食部屋まで運んでもらえませんかね?」

     「あ・・・・うん」

 

     「蘭、コーヒー入れてくんねぇか?」

     「あっ、俺のもええかな?」

     「いいわよ」

 

   みんなの注文に応じつつも気がついたらすっかりその生活にも馴染んでるあたしがいた。

   白馬さんは書斎や図書館なんかにいることが多くて殆ど顔を合わすことがなかったし、服部くんは

   事件となったら新一みたいに行ったっきり返ってこなかったり、時には大阪の和葉ちゃんの所に戻った

   りしてて、事実上必ず顔を合わせてるのは家主の新一と、快斗くんだけだったんだけどね。

 

   そんなある日の夜。

     「蘭ちゃん、ゴメンな。本当は新一と2人になりたかったのにな」

     「そんなことないわよ。あ・・・・コーヒー飲む?」

     「あっ、サンキュ」

     「最初はね・・・・ちょっとガッカリって気持ちあったんだけど・・・・今は結構楽しいなって思うの。

      なぁんか合宿でもしてるみたいで」

     「そう?ってか、やっぱり期待してたんだな。新一と2人だけっての(笑)」

     「えっ・・・・?期待とか・・・・そーゆーんじゃなくて・・・・」

     「素直だなぁ、顔に全部出てるし。まぁ、俺は蘭ちゃんの手料理食べられて得したけどさ」

     「も・・・・もぉ・・・・(苦笑)・・・・そーいえばみんなは?」

     「3人とも同じ事件で出てったみたいだな、今日は」

     「そっか・・・・みんな探偵だもんね、それにしても遅くない?」

     「難攻してるんじゃねぇの?奴等中途半端じゃ帰ってこないっしょ」

     「そうよねぇ・・・・先に食べてよっか?」

     「そーだな」

   そう言って、夕食を暖めなおしてる時だった。

   “pipipi・・・・”

   快斗くんの携帯が鳴り電話に出た快斗くんの表情が一瞬変わった。

   相手は白馬さんらしいんだけど・・・・快斗くんはあたしをチラッと見た後ドアの外に移動して何か話してる。

     「マジで・・・・?で、新一はどんな状態なんだよ?」

     “新一に・・・・何かあったんだ・・・・”

   あたしはドアの外で話してる快斗くんの側まで近寄ってみる。

     「命に・・・・別状はないんだな?・・・・そっか・・・・分かった、取り合えずこっちは事件が落ち着いて

      ないとでも言っておく・・・・」

     「新一に何があったのっ!?」

   思わず、快斗くんの電話をさえぎってた。

     「あ・・・・あぁ、こっちは大丈夫だから、また連絡くれよ」

   慌てて電話を切る快斗くん。

     「命・・・・って・・・・何があったのよっ?!快斗くん!」

     「何でもないよ・・・・って言っても無駄だな(苦笑)」

     「・・・・新一に・・・・何かあったのね・・・・?」

     「あぁ・・・・犯人を説得中に刺されたらしいぜ・・・・けど、軽傷だから心配すんな・・・・って電話だったよ」

     「そんなっ・・・・心配するなって・・・・軽傷じゃないから白馬さんが電話してきたんでしょっ!?」

   快斗くんを責めてもしょうがないのに、あたしを落ち着かせようとしてる快斗くんに詰め寄ってた。

 

   “ガチャッ”

   食事もせず、沈黙のままの時間が過ぎてる中玄関のドアを開ける音で我に返る。

   時計を見ると2時を回っていた。

     「まだ・・・・起きてたんか」

     「服部」

     「・・・・新一は・・・・?」

     「大丈夫や。今は手当てで病院に居るだけや」

     「・・・・ホントに・・・・?・・・・ホントに大丈夫なの・・・・?」

     「あぁ、蘭ちゃんがそんな顔しとったら、治るもんも治らへんやろ?」

     「けどっ・・・・」

     「白馬がついてんのか?」

     「明日の朝には帰ってくるんちゃうんかな。避けきれんで掠った程度やし・・・・」

     「そっか」

     「朝には帰ってくるんや、蘭ちゃんが泣いっとたらアカンやろ?」

     「・・・・うん・・・・」

   そう言われても、あたしは放心状態のまま動くことができず座ったまま。

   そんなあたしを見てキッチンに行き食事を暖めなおしてくれる服部くん。

     「ほな、飯にしようや」

     「でも・・・・あたし・・・・」

     「新一のこと信じてんだろ?だったら、ちゃんと飯食って元気にしてなきゃ。蘭ちゃんがぶっ倒れた

      ら困るの新一なんだぜ?」

     「・・・・うん・・・・」

   2人に説得されて食事を口に運ぶと、

   “pipipi・・・・・”

     「・・・・はい・・・・」

     『蘭、まだ起きてたのか?』

     「・・・・新一っ・・・・犯人に刺されたって・・・・」

     『バーロォ・・・・なんて声してんだよ。俺がこんなことで参るわけねぇだろ?』

     「でもっ・・・・新一無茶ばっかりするんだもん・・・・怪我したって聞いたら・・・・」

     『ったく、俺との約束はまだ終わってねぇんだからな?しっかりしろよ』

     「・・・・そんなこと・・・・」

     『俺は大丈夫だから・・・・な?』

     「・・・・ん・・・・わかった・・・・」

     『そーいや服部帰ったか?』

     「あ、うん・・・・戻ってるわよ」

     『んじゃ、事件は片付いたんだな。とにかく朝には白馬と帰るから、服部と快斗頼んだぞ?』

     「うん・・・・わかった」

     『じゃあな、おやすみ』

   携帯を切る。

     「な?元気やろ?」

     「うん・・・・朝には戻って来るって」

     「良かったじゃん、さ、飯食おうぜ?」

     「うん」

   元気な声で安心はしたけど・・・・顔を見るまではそんないつもの気分にはなれずに、食事の味さえ

   感じなかった。

 

   次の日。

   右手を吊った姿で戻ってきた新一はいつもの元気な様子だったんだけど、そのまま部屋に入ったっきり

   出てこなかった。

     「工藤君は?」

     「ん・・・・寝ちゃったみたい・・・・」

     「疲れてるんでしょう、昨日は荒れてましたから」

     「何があったんだよ?」

     「昨日の犯人・・・・毛利さんのお父様とも関係がある人物らしくてね。あなたの名前が犯人の口から

      出た瞬間・・・・人質をとってる犯人と格闘・・・・で、右手に負傷したってわけですよ」

     「あたしの・・・・名前・・・・?」

     「そや、昨日は凄かったんやで?たまたまソコに居合わせた小五郎さん人質になってもうてな、

      犯人の口から蘭ちゃんの名前出たら小五郎さんも工藤も切れたんやろーな。説得どころか格闘

      になってたんや」

     「珍しいな、あの冷静な新一が・・・・」

     「どっか、虫の居所でも悪かったんじゃないんですか?」

     「それにしても・・・・無茶しすぎよ・・・・」

     「そうそう、私達明日の夕方にはここを出ますので夕食は結構ですよ」

     「えっ・・・・まだ3日あるのに・・・・?」

     「最後の3日間くらい2人っきりになりたいやろ?」

     「服部くん・・・・そんなこと思ってないってば」

     「昨日の夜飯も食わずに泣いてた人の台詞かよ」

     「快斗くん・・・・」

     「でも、楽しい休暇でしたよ」

     「白馬さん・・・・」

     「ま、そーゆーわけや。工藤の手もまだ使えへんやろーし・・・・3日どころか延長なんてことも

      ありえるんちゃうんか?」

     「そっか・・・・そうよね、じゃ・・・・今日の晩御飯はちゃんと作らなきゃね」

 

   結局、この夜がみんなと最後の夜で、次の日みんなは自分達の家に帰って行った。

     「急に静かになったな」

     「ホント・・・・もっとゆっくりしてくれて良かったのにね・・・・」

     「まぁな・・・・そーいや、俺等が居ねぇ間快斗とオセロやったんだって?」

     「えっ・・・・快斗くん、新一に話ちゃったのっ!?」

     「あぁ、聞いたぜ?連敗記録は止まってねぇってな。ホント弱ぇ弱ぇ」

     「もぉ・・・・しょーがないでしょっ!?・・・・苦手なんだもん・・・・」

 

   笑いながらあたしを見てる新一。

     「あっ・・・・コーヒーでも入れよっか?」

     「サンキュ」

   一瞬の沈黙になぁんとなく動揺したあたしは、席を立った。

   今までみんなが居たから自然で居られたのに、やっぱり2人っきりっていうのは意識しちゃうみたい

   で・・・・。

   ぼぉーっとそんなことを考えながらコーヒメーカーを見つめていた瞬間・・・・。

     「蘭・・・・」

   言葉と同時に左肩に置かれた手の感触に一瞬ビックリしてふりかえる。

     「し・・・・新一・・・・?」

     「悪かったな・・・・心配させちまってよ」

     「・・・・もぉ・・・・どれだけ心配したと思って・・・・」

   あたしの言葉をさえぎるように片手だけでそっと抱き締めてくれる新一。

     「・・・・わぁってる・・・・けど、昨日は・・・・」

     「ん・・・・白馬さんと服部くんから聞いた・・・・。ありがとね、お父さん助けてくれたり・・・・嬉しかったよ」

     「んじゃ・・・・おっちゃん助けたお礼に、俺の手が治るまで引き続き頼むな?」

     「・・・・えっ・・・・お礼って・・・・もぉ・・・・しょうがないなぁ・・・・」

 

   賭けから始まった同棲生活だったけど・・・・いつか、ホントにこーゆー日が来るといいな・・・・なぁんて

   思った、夏休みでした。

 

                                         おしまい♪

 

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