恋の温度
by,ruka
昼下がりの公園。
待ち合わせの13:00はとっくに過ぎてるのに新一はまだ来ない。
「もう・・・・40分も過ぎてるのに・・・・」
腕時計に目をやりながらそう呟いた時だった。
「わりぃ!!」
息を切らせながら走ってくる新一。
「遅いわよ・・・・何分待ったと・・・・」
「ちょっと事件で、目暮警部に頼まれてさ・・・・」
私の言葉をさえぎるように聞こえてくる新一の言い訳。
「事件事件って・・・・あたしと事件とどっちが大切なのよっ!?」
「だから・・・・悪かったよ・・・・」
分かってる・・・・新一が事件って聞いたら落ち着いていられないのは頭では分かってるつもりだった。
「もぉ・・・・遅れるなら遅れるって・・・・せめて連絡くらいしてよ。・・・・待ってる時間って凄く不安なんだ
からねっ!?」
やっと戻ってきてくれたせいか待ち合わせで遅れるたびに私は不安でいっぱいだった。
また、何処かに行ったまま今度は戻ってきてくれないんじゃないか・・・・って。
「あぁ・・・・ゴメンな?」
軽く頷いて新一の言葉を流した時だった。
前から私達の所に近づいてくる女性。
金髪にウェイブのかかったボブヘアの女の人・・・・。
「久しぶりね、工藤君」
彼女は新一ににっこり微笑むと、ついでのように私を見る。
「よぉ、宮野・・・・元気そうだな」
親しげに話す二人をただ見ている私。
その後の新一とのデートでも、彼女のことについては『以前の事件に関わった人』としか教えてはくれなかった。
何となく、嫌な予感・・・・。
あの女性のあの視線・・・・私前にも経験してる気がするんだけど・・・・会った事はなさそうだし・・・・。
そんなことを考えながら新一との時間は過ぎていった。
それから数日後の休日・・・・。
新一と約束をした日、急用ができたとかでキャンセルされて米花町を歩いてた時だった。
信号待ちをしてる私の前に飛び込んできた喫茶店で楽しそうに話してるカップルの横顔・・・・。
「・・・・新一と・・・・宮野さん・・・・?」
何を話してるのかは分からないけどとにかく楽しそうな2人の様子だけが私の目に飛び込んできた。
「・・・・急用って・・・・宮野さんと会うことだったっていうの・・・・」
週明け・・・・。
何も聞けないまま時間だけがどんどん過ぎていく。
部活が終わるのを待っててくれた新一と一緒に帰る途中何度も切り出そうとするんだけど、言葉が出てこない。
「・・・・何かあったのか?」
「・・・・えっ?・・・・」
「さっきから黙ったまんまじゃねぇかよ」
「・・・・新一・・・・あたしに隠してること・・・・ない?」
「あ?・・・・何だよ?」
「日曜日・・・・何してたのよ?・・・・急用って言ってたよね?」
「あぁ・・・・あん時は悪かったな。せっかく予定入れてたのによ」
「・・・・駅前の喫茶店・・・・一緒にいたの宮野さん・・・よね?」
新一の表情が一瞬変わる。
やっぱり、そうだったんだ・・・・。
「・・・・前の事件のことでちょっと話してただけだよ」
「・・・・あたしとの約束キャンセルするほどのことだったんだ?」
「だから、それは・・・・」
ちょっと興奮しながら話してる私のカバンから落ちた手紙で形勢は逆転した。
「落ちたぜ?」
拾った手紙の差出人を見て新一が私を見る。
「・・・・黒羽・・・・って、江古田高の・・・・黒羽か?」
「あっ・・・・何か・・・・朝ポストに入ってたのよ・・・・」
「へぇ・・・・前にも黒羽から連絡あったよなぁ?まだ続いてたのかよ・・・・」
慌てて新一から手紙を取る。
「ンだよ・・・・おめぇだって一緒じゃねぇかよ」
「あ・・・・あたしはそんなんじゃ・・・・」
「前に言ってたよな?黒羽とはもう何もないって」
「だから、黒羽くんとは助けてもらったお礼に会っただけで・・・・」
「何だよ?未だに手紙のやり取りはあるんだろ?」
「・・・・何よ!?新一だって・・・・事件の時の知り合いって彼女のこと隠すじゃない・・・・」
「・・・・認めんのか・・・・」
「認めてなんか・・・・」
「別に・・・・いーんじゃねぇの?・・・・俺にはおめぇのこと止める権利ねぇーんだし・・・・」
「分かったわよ・・・・あたしにだっていい人くらいいるんだからっ・・・・もぉいいわよっ!!」
「どこにでも行きゃいいだろ?・・・・勝手にしろよっ!」
何でこーなっちゃうんだろ・・・・新一が隠してる宮野さんのこと、知りたかっただけなのに・・・・。
家まで走って帰ってくると家の前に人影があった。
「・・・・宮野さん・・・・?」
私の表情に何かを感じたのかにっこり微笑んでる。
「・・・・その様子じゃ工藤君と喧嘩でもしたのかしら?」
「・・・・べ・・・・別にそんなこと・・・・」
「喧嘩の原因は・・・・私と工藤君の関係・・・・とか?」
何も言えず俯く。
「あなた素直ね・・・・全部顔に出てるんだもの・・・・工藤君とは何もないわよ?信じられないって言うのな
らそれ以上は何も言わないけど・・・・」
「あの日・・・・何故新一を誘ったの・・・・?」
「事件の結果を報告するためよ?かなり長いこと工藤君を事件に巻き込んでしまったから、彼もその結果を
知りたかったみたいだし・・・・信じるかどうかはあなた次第だけどね・・・・それじゃ」
それだけ言うと宮野さんは帰っていった。
「今更聞いたって・・・・もぉ、遅いわよ・・・・」
あれから何となく会いづらくて学校でも殆ど会話をすることはなくて、どっちかというと私が避けてしまってる感じ
だった。
部活が終わった後の帰り道。
自宅近くの公園を通り過ぎようとした時だった。
「待てよ、蘭」
新一の声に思わず立ち止まる。
一瞬の沈黙に耐えられず再び歩き出そうとした瞬間。
「待てって」
歩き出そうとする私の手を掴み私を見ている新一。
「・・・・離してよ・・・・」
「何で逃げんだよ」
「・・・・逃げてなんかないわよっ・・・・」
「逃げてんだろーがっ」
誰も居ない公園に響く私たち2人だけの声・・・・。
「・・・・何よっ・・・・何から逃げてるって言うのよっ!?」
そう言って新一を見ると、私をまっすぐ見て新一は呟いた。
「逃げてんだろ・・・・?・・・・俺から・・・・それと、真実からもな」
何も言えなかった・・・・胸が痛いくらいの一言・・・・。
宮野さんが新一との無関係を知らせに来てくれて・・・・新一も宮野さんとの関係は否定してる。
なのに・・・・あたしは黒羽くんからの手紙を持ったまま・・・・何もできないでいるんだもの・・・・。
「・・・・蘭が・・・・おめぇが宮野とのこと疑ってんのはわかってる。事件に関わった相手とはいえ、蘭との
約束キャンセルして会ってるとこ見られちまってんだからな・・・・ただ、何もない・・・・ってことだけは言
おうと思ってた」
俯いたまま言葉も出てこない。
「信じるも信じねぇも、蘭の自由だけどよ・・・・俺は・・・・蘭を信じてるからこのままってのが嫌だっただけだ」
「・・・・新一・・・・」
「蘭が俺から逃げてんのはいいとしても・・・・黒羽とははっきりした方がいいんじゃねぇのか?・・・・もちろん
蘭がそいつのことがいいなら俺は止めねぇけど・・・・」
「・・・・どこへでも行けって言ったの・・・・新一よ・・・・?」
「俺のせいだってのかよ?・・・・あれは、蘭が他にいい人がいるって言うからだろ?」
「・・・・ゴメン・・・・ね」
やっと、言えた一言・・・・。
「・・・・蘭・・・・」
夕焼けに長く延びた私たちの影・・・・。
私は新一の胸に飛び込んだ。
「・・・・宮野さんからも聞いたの・・・・新一とは何もないってこと、分かってたのに・・・・あたし・・・・」
涙が止まらなくって言葉が出てこない。
そっと抱きしめてくれる新一の暖かい優しい手が余計に私の感情を高ぶらせる。
「・・・・お願いだから・・・・何処へでも行けなんて言わないで・・・・あたしが・・・・あたしが好きなのは新一
だけ・・・・なんだから・・・・」
「・・・・バーロォ・・・・ンなこと泣きながら言うなよ」
そう言いながらも強く抱きしめてくれる新一の手。
「・・・・新一・・・・」
「ったく・・・・蘭が居なくなると困るのは俺も一緒なんだからよ・・・・あんま心配させんなよ・・・・な」
「ん・・・・」
ちょっと泣き顔だけど、やっと笑ってまっすぐ新一を見れた。
〜END〜