I Wish

                                                  作:流香

 

  「ほな和葉送るわ」

  「ホンマ?おおきに」

平次からメットを受け取るとバイクにまたがった。

家までの帰り道何台ものパトカーとすれ違う。

  「何や、今日はパトカーによう会うなぁ」

  「キッドから届いた予告状のせいちゃう?」

  「予告状?・・・・けど、あの予告状1週間後やろ?今からパトカーが動いてるってのは変やろ」

  「平次、知らへんの?予告はサンモール美術館の涙の秘石ゴメイサを取りに行くって内容やったやん?

   ・・・・あの宝石なぁ、うちの金庫に保管することになったんや」

  「何で、和葉の家で保管すんねん」

  「キッドは絶対にサンモール美術館に行くはずやから・・・・そこにニセの宝石を置いて、大阪府警の誰かの

   個人宅で保管して守るってことになったらしいで?・・・・平次のおじちゃんから聞いてへんの?」

  「あのクソオヤジ・・・・ちぃーっとも帰って来んのや。けど・・・・和葉のオヤジさんだけで守れるものとちゃう

   やろ?」

  「私服の警官来るようなこと言うてたし、キッドが騙せたらそれでええんちゃうの?」

青に変る信号に、平次がアクセルをふかしたその時、突然銃声が鳴り響いた。

  「なっ・・・・何!?今の!」

そう言った瞬間・・・・また銃声・・・・

突然タイヤが何かを踏んだように大きく揺れ平次もハンドル操作に戸惑ってる様子やった。

アタシはバイクから投げ出されて、地面に横たわりながら平次を探すとバイクに引きずられながら倒れていく

のが見える。

  「へ・・・・平次・・・・」

まだ聞こえている銃声の音・・・・犯人の狙いは多分アタシ達なんやろうけど・・・・いったい何のために?

・・・・キッドの他にも宝石を狙ってる人がいるってことなんやろうか・・・・

薄れ行く意識の中でそんなことを考えながら、アタシはビルの屋上に立っている人を見てた。

白いマントにシルクハットの男の人・・・・そこから、銃みたいなのを犯人に向けて撃っている・・・・飛び出して

いくのは、カードやろうか・・・・どうやら、あの人はアタシ達を犯人から守ってくれたようや・・・・。

 

―3日後―

アタシはかすり傷程度で済んだものの、平次はバイクに挟まれた足の骨にヒビが入ってたらしく、松葉杖を

つきながらも元気に復活をとげた。

その日の夜のこと・・・・。

 

―遠山家・和葉の部屋のベランダ―

“ドサッ”

  「ん・・・・?何やろ・・・・」

ベダンダを覗くと、人が倒れてた。

  「キ・・・・キッド・・・・?」

何も言わずそっと微笑むキッド、白いタキシードの上には真っ赤な血がにじみ出ていた。

お父さんにバレたら大変や・・・・アタシはそっと声をひそめた。

  「・・・・怪我・・・・してるの?」

  「だ・・・・大丈夫ですよ。お嬢さん・・・・」

  「ちょ・・ちょっと待っててな」

部屋に戻って救急箱を持ってくる。

  「・・・・ちょっとしたかすり傷ですよ・・・・」

  「ダメや・・・・かすり傷やないやん・・・・ちょっと大人しくしててな」

ちょっと強引かな・・・・と思いつつもアタシはキッドの傷の手当てをしていた。

  「・・・・この間のお礼言えへんかったし・・・・」

  「お礼・・・・ですか?」

  「ん・・・・3日前のバイクに銃を向けた犯人、あれから守ってくれたんは・・・・あなたやろ?」

  「あぁ・・・・あの時ですか。ずっと犯人達はあなた達のバイクを追っていましたからね」

  「アタシ達のバイクを?」

  「犯人の狙いは、ゴメイサ・・・・お嬢さんの家に保管されるハズの、あの宝石ですよ」

  「じゃ・・・・犯人が狙ってたのは・・・・」

  「そう、あなた達・・・・というより、むしろお嬢さん貴女ですよ」

  「アタシが・・・・狙われてた・・・・けど、アタシの家に保管される・・・・って何で知ってるんや?」

  「もちろん・・・・私の狙いも宝石ですからね・・・・ただ、ここで手当てをしてもらってはお嬢さんに借りが

   出来てしまいましたね」

  「・・・・アタシ・・・・協力してもええよ・・・・?」

  「ダメですよ。貴女を巻き込むわけには行きません」

  「でもっ、そんな身体でどうやって、盗みに入れるん・・・・?」

  「大丈夫、まだ数日あります。・・・・それに・・・・貴女が私に協力したこと大阪府警が知ったら・・・・困る

   でしょう?・・・・貴女にそんな危ないことはさせたくない」

優しい微笑みにアタシは、引くどころか協力することを強く考えてた。

  (お父さん、平次・・・・ごめんなぁ・・・・)

キッドもそんなアタシのことを少しわかってくれた様子で「側にいたい」と言うアタシの願いを聞き入れてくれた。

予告の日まで、キッドの傷の手当てをするために毎日会える数時間がホントに楽しくてしょうがなかった。

 

―予告当日の朝・港倉庫―

  「傷・・・・だいぶ治ってきたみたいやね」

  「お嬢さん・・・・いえ、和葉さんのおかげですよ(微笑)」

  「・・・・今日、行けそう?」

  「大丈夫ですよ。・・・・貴女は私と関わったこと全て忘れた方がいいかもしれませんね。・・・・少なくとも、

   今日は大阪府警の敵。あなたのナイトやお父さんの敵になるんですから」

  「嫌やっ・・・・アタシ、忘れなきゃいけないくらいやったら・・・・いっそのこと敵にまわしてもええ」

  「そんなこと言うもんじゃありませんよ・・・・。もちろん、貴女の気持ちは嬉しいしできればそうしたい、でも、

   私は怪盗なんですよ」

“バタンッ”

ドアの開く音に振り向くと、杖をつく人のシルエットだけが見える。

  「・・・・平次・・・・」

  「和葉・・・・このところオマエの様子が変やと思ったら・・・・こーゆーことやったんか・・・・」

  「何で・・・・ここが分かったん・・・・?」

  「・・・・発信機・・・・ですか」

あたしのカバンから小さなシールをはがすキッド。

  「・・・・平次・・・・」

  「今なら、まだ間に合うんやで?・・・・キッドが盗みに入る前や。俺も見なかったことにしたろ・・・・

   どうするんや?」

  「ゴメン・・・・平次・・・・アタシキッドに命救われてんねん・・・・アタシ・・・・キッドの側にいたいんやっ」

  「命救われたら、怪盗の片棒でもかつぐ言うんかっ!?」

  「ちゃうよ・・・・好きになってもうたんやもん・・・・ゴメン・・・・平次・・・・」

  「今は・・・・何言うても無駄のようやな・・・・今回のことだけは、親父さんにも内緒にしといたる・・・・じゃな」

平次の後姿を見送るアタシの手をそっと握るキッドの暖かい手・・・・

  「まったく・・・・困ったお嬢さんだな(微笑)」

  「ゴメン・・・・アタシキッドのお荷物になってまうな・・・・」

  「そんなことありませんよ?貴女が側にいてくれるというならそれほど心強いものはない・・・・」

  「ホンマ・・・・?ホンマにそう想ってくれてるん・・・・?」

嬉しさのあまりアタシの目は涙で潤んでキッドの顔さえぼやけて見えてる。

  「もちろん、貴女に涙は似合わない・・・・ずっと側で笑っていてください」

そう言って、アタシの瞳の涙を指でぬぐうキッド。

  「うんっ」

やっと笑顔に戻ったアタシをそっと抱きしめてくれる大きな手。

ずっと、このまま時間が止まってくれたらええのにな・・・・。

 

                                                   END

 

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