揺れる想い

        「新一…ごめんね……何だか、もぉ…良くわかんない
        『蘭っ?!…おぃ、待……』

      受話器の向こうから聞こえる彼にかまわず、電話を切った。

      ホントはずっと信じて待っていよう…って、そう思ってた。
      だけど、気がついたらあたしの中には色んな気持ちでぐちゃぐちゃになってた。

        「俺を信じて頼って来い」

     最初は嬉しかったのよ?…でもね、今はどうしていいかわかんなくなるの。
      きっと貴方はあたしと一緒にいる時でさえ違うことを考えてる。
      幼馴染っていう関係が長すぎて、そんな関係が邪魔して、あたしは身動き取れなくなってた。

      長く一緒に居たから、新一があたしのことわかるように、あたしにもあなたのことがわかるの…手に取るように。

      pipipi……。

      画面に映し出される『新一』の文字。
      躊躇いつつも携帯を手に取った。

        「……はい」
        『…蘭?』
        「…ごめん…あたし…」
        『なぁ…会って話さねぇか?』
        「…でも…」
        『ンな中途半端で納得できるわけねぇだろ?』
        「…ん…」

      今新一の顔見て、あたしは何を話せるの?
      事件って聞いて飛んでいくのはいつものこと。
      今に始まったことじゃないじゃない。
      それなのに…今更、傍に居たいなんて…あたしの我侭言える?言えるわけないよ…。

      今の…こんな状態を早く変えたかった…。
      壊れちゃってもいい…それ以上の進展なんて望んでない。
      だって、事件の先にある新一の楽しみを邪魔したくないんだもん…。
      どれだけ自分を納得させても、あたしはそんな新一に嫉妬さえしそうになる。

      もぉ……疲れちゃったよ…。
      好きなままで…居たいの、ずっとずっと…。

      数時間後、指定された公園に行くと新一はもう来ていた。
      足を運ぶことさえ躊躇わせる…、前まではこんなこと無かったのに…何も考えず笑って話せたのに…。

        「ごめんね、待った…?」
        「いや、俺も今来たとこ。待ってねぇよ」


      少し笑顔を見せる新一につられるように微笑むものの、やっぱり真っ直ぐには見ることができない。

        「ちょっとは落ち着いたのか?」
        「…えっ?」
        「『何だか…もぉ、よくわかんない』オメーの言った言葉…大丈夫とは思えねーンだけど?」
        「…ね、新一…推理とか、捜査とか…楽しい?」
        「は?何だよ、唐突に…楽しいっつーか…オメーにずっと話してた通り、探偵ってのは辞めらンねー
         くらい楽しいさ」
        「そっか、そうだよね。んーん、何か…聞くまでもないこと聞いちゃった…よね」
        「…ったく、いい加減ホントのこと言ったらどうだ?…言いたい事あンだろ?」

      ふいに向けられた新一の瞳に、息を飲む。
      まるで推理でもするような…そんな様子であたしを見る新一。

        「…何でもない…じゃ、通用しない…?」
        「わぁってンなら、言えよ……オメーのそんな顔見てっと、心配で何も手につかなくなンだろ?」
        「……えっ…?」

      新一の言葉で、あたしは吃驚して顔をあげる。
      …何も手につかなくなる…って、だって…どんな状況でも事件があれば飛んでいくじゃないっ…。

        「俺が事件に行ってっから、説得力無ぇのはわぁってる。…けど、な?蘭のことを気にしてるのはいつ
         もなんだぜ?」
        「……新一…」

      それでも、やっぱりずっと思ってた気持ちは拭えない…。
      もぉ…こんな気持ちが続くのは嫌…。
      色んな想いが交差して、涙が出そうなのを必死に我慢する…ダメ、ここで泣いちゃダメよ…。
      そう考えながら俯いた顔を上げた瞬間だった…手を引かれふわっと体が引き寄せられ…あたしは新一の
      腕の中に居た。

        「俺の顔見て言えねぇなら、こうしててやる…思ってること全部言えよ…どんなことでも聞いてやっから」

      もう…無理。
      ここまでされたら…あたしは、ホントの気持ちを言うしか…ないよね。
      だって…何もかも見透かされてるんだもん…それでも、やっぱり抵抗しちゃうところはある。

        「…新一…あたし…し…信じてるからっ…」

      そう言った瞬間、新一の手に力が入る。

        「そうじゃ、ねぇだろ…?何聞いても驚かねぇから…言えよ、我慢すンな…受け止めてやっから」

      何で、そんなカッコいいこと言うのよ…これじゃ…嘘もつけないじゃない…。
      あたしは小さく頷くと、震える声で新一の胸に顔を埋めたまま…話し出した。

        「…ホントはずっと考えてたの…。このままでいいのかな…って、あたしは…あたしは、新一のこと…
         好きよ…?だけど…」

      新一の手に入る力で言葉は止まる。
      やっぱりそんな言葉迷惑よね。

        「…だけど、何だよ…?」
        「……だけど…新一はそんなの重荷になっちゃう…でしょ?…だから、もぉ…普通の何でも無かった時
         の、気持ちに戻った方が…」
        「…バーロォ。オメーをこんな不安にさせちまってるのは俺なンだよな…だから、蘭の思うことに反対する
         権利は無ぇと思ってる。けど、な?…俺は蘭を重荷と感じたことは一度も無ぇから…ンなこと言うな。
         …いつだって傍に居てやりたいと思ってるのは本当なんだぜ?」
        「…しん…いち…」
        「…悪ぃな、事件に行かない…とは言えねぇけど…いつまでも、守ってやりたいと思ってっから
もう一度
         俺を信じてくンねぇか?」

      何も言えずただ頷いてた
      ホント、何でも分かってるのね…だからかな……諦めようとしても、忘れようとしても…絶対に出来ないの。
      遠からず、また…不安になることがあるかもしれない…でも、ずっと信じていたいな…。ずっと、ずっと……ね。

                                                         END


      +++ あとがき +++

       なぁんで、こんな恥ずかしいの書いちゃったんだろ…。
       何となくね、蘭ちゃんの悲痛な叫びを
書きたかったのに、思わぬ展開に進んじゃった(笑)
       当初の予定では…蘭ちゃんは別れるというか忘れる決意してたハズなんです(笑)
       ダメだね、気持ちの沈んでる時にお話を書く…ってのは(苦笑)

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