心の合鍵


      「ホント…綺麗よね…」

     小さくなっていく園内の景色を眺めながらつぶやく。
     すっかり暗くなったトロピカルランドはイルミネーションに彩られ、観覧車の中に居るあたし達からは、
     光の波の中に居るような…そんな空間でもあった。
     二人で一緒に過ごすことも無ければ、話すことさえ減っていたあたし達にとってはこういう時間が大切
     なのかもしれない。


 
       「米花町はあの辺よね…うちの事務所、此処から見えるのかな…」

     沈黙になるのが嫌で、無理にはしゃいでいるあたしとは逆に遠くの景色を見て黙ってる新一。
     そんな様子がやけに気になってふと視線を向けると…視線が重なった。

       「なぁ…オメー、何か隠してねぇか?」
       「えっ…?」

     沈黙を破った新一の口から出た言葉に、一瞬の動揺が走る。
     視線を逸らそうにも、一度捕まると逃れられないこの瞳にあたしは戸惑いながらも微笑んで見せた。

       「隠してることなんて…無いわよ?」

     そんなのが通用する相手じゃないのは分かってる。
     だけど…隠してるとかそういうのでもないんだもん。
     そう…確信が無いから何も言えないだけ…。

       「忘れた、とは言わせねぇぞ?…言ったよな?会ってオメーを見りゃ分かるって」

     もちろん、しっかり覚えてる。
     だから、こうして…普通に振舞ってるんだもん。

       「…ん、覚えてるわよ?…だから、ホラ…大丈夫でしょ?」
       「…大丈夫?…だったら、何で動揺してンだよ?」
       「別に…動揺なんて…」

     観覧車という密室な空間に増して、逃れられない瞳にふと苦笑を零し諦めた表情でにっこり微笑
     んだ。

       「もぉ…ずるい」
       「オメーが、変に隠そうとするからだろ?…俺は、ンなに頼りねぇか?」
       「違う…。頼りにしてるし…頼りになってるよ…あたし側の問題…」
       「はぁ?…ンだよ、それ」

     怖いのよ…。何処まで頼っていいのか…寄りかかっていいのか…。
     事件に追われてて、ただでさえ疲れてるところにあたしの負担なんて背負わせたくない。
     そんなこと言ったら、きっと怒るだろうけど…ね。
     口篭るあたしを黙って見つめたまま、ただ返事を待っている新一に耐えられなくなって
     口を開いた。

       「ねっ…此処、ちょーど真ん中よ?…やっぱり、高いね…」
       「…ったく、何で話逸らすかな」
       「ごめん…あたしね、毎回『頼って来い』って言われるたびに…躊躇ってた…。
        ホントにいいのかな…とか、もぉ少しくらいなら大丈夫…って。でも…あたしが
        そうしてることが、心配させちゃうなら…それは、ダメなんだよね…ね、新一」

     “何だよ?”…言葉にはしないけど、そんな表情で逸らすことなくあたしを見てる。

       「新一は…こんなあたしじゃ信じられないよね」
       「…そうだな」

     想像は出来てた言葉だったけど…やっぱり、本人の口から聞くと“ズキッ”と来る。

       「明らかに見て分かンのによ、『大丈夫』っつてる…信じろって方が無理だろ?
        ……オメーが、本心で笑ってンなら何も言わねーよ。けどさ…」
       「…ん…分かってるの…。だけど、あたしだって…元気な時もあるのよ?今まで
        こんなだったし、全部信じて…とは言えないけど…無理って思ったら、ちゃんと
        言うから……だから、もぉ少し…信じてよ」

     相手の反応が怖くて、俯いたまま呟いた言葉。
     だけど、気になって顔を上げてみると…さっきとは、違う少し穏やかな表情で微笑ん
     でる彼。

     そう…お互いに心にかけた鍵を開けて、ほんの少しだけ近づけた…そんな夜だった。

                                                    

 

                                                      Fin

 


      +++++ あとがき +++++

      はい…これね……ほぼ、実話(笑)
       某工藤くんとの実写版トロピカルランドでデート中に、これに物凄く近い会話を…
       いや、こんな会話してました(笑)

       モデルになってる、工藤くん…ホント、いつもお世話になってます(笑)
       こっそり、デートの記録…今年は頑張るので、お楽しみにvv

                                                流香

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