夏祭り―― 蘭Side ――
「ホンマ、おっそいな…」
「あはは…でも、あたし達も早く来すぎちゃったんだし…」
神社の狛犬の横で、時計と鏡を交互に見てる和葉ちゃん。
なんでも、この辺で一番大きな花火大会があるってことで、あたし達も浴衣を着て…なぁんとなく、
落ち着かない感じで新一と服部くんを待っているところだった。
「ねっ、向こうから歩いてくるの…そうじゃない?」
「あ、ホンマや。平次っー、こっちこっち!」
2人の姿が近づいてくると、嬉しそうに手を振る和葉ちゃんの声に、恥かし気な表情で応えてる服部くん。
新一も服部くんも、浴衣を着て…見慣れてるはずの姿が、何だか違う人みたいに見える。
「おっそーぃ。こっちは待ちくたびれてんやで?」
バツの悪そうな顔で、言い訳をしようとする2人に、何となく助けを入れてみる。
「2人ともよく似合ってるじゃない」
「ん?あぁ、これかー。服部の母さんに仕立ててもらったんだよ」
「ふーん。そうなんや。やっぱ工藤君は何でも似合うてんね」
「そーかなぁ…服部君も、素敵な深緑で好きよ?」
一瞬、固まる服部くんの表情。
「お、…おおきに。ほな、ここで駄弁るのもなんやし…中、行こかー」
ギクシャクしながら先を歩く服部くんの後ろを、あたし達3人はクスクス笑いながら着いて行った。
花火の時間までは縁日を覗いたり、射的や金魚すくいなんかで、ムキになって勝負する2人に
大笑いしたり…。
ふと、気がつくと辺りは暗くなりかけて、人も賑やかになってきていた。
花火まで、後少し……あたし達は、花火の見やすそうな位置に並んで場所をとった。
― ドーン…パチパチ… ―
数色のスターマインをきっかけに、大空にたくさんの花が咲く。
あたし達は、その鮮やかさにただ…夢中になって眺めてた。
仕掛け花火なんかが上がれば、和葉ちゃんと歓声を上げたりして大騒ぎ。
花火大会も中盤を越した、そんな時だった。
「なぁ…毛利の姉ちゃん…」
花火にかき消されそうな声で、あたしを呼ぶ声の主に視線を向ける。
「ん?なぁに、服部くん」
彼の僅かに動いてる唇は、胸にドーンと響くような尺玉の音にかき消され、あたしのところまでは
届いてこない。
ホントに僅かな唇の動き……何て、言ったんだろ…。
彼の傍に耳を寄せ尋ねてみる。
「何て…言ったの?」
彼は何も言わず、笑顔…とも違う笑みであたしを見てる。
「服部…くん?」
伺うように尋ねるあたしの肩に……大きな手の温もり。
少し力の篭ったその手に驚きながら視線を移しかけたその時……
夜空に広がる大輪の光を彼の顔が遮った。
咄嗟のことに思わず瞳を閉じる。
―――― ………っ…。
一瞬触れた唇に頭の中が一瞬真っ白になる。
多分、ほんの数十秒の出来事…。
だけど、あたしには数分、数十分のことのように思えて、状況を把握できずにいる。
― ドーン ―
全身にまで響く尺玉の音に、我に返って瞳を開けると…微笑んであたしを見てる彼。
―――― トクン。
胸の奥で何か熱くなるのを感じた。
前々から少しだけ、感じていたこと。
あたしは…そんな自分を認められずに居て……。
そんな想いが……確信に変わる。
ふと、彼から目を逸らして反対隣を見ると、新一と和葉ちゃんは花火に夢中で空を見上げてる。
そのまま視線を花火に戻すと、隣に居る彼の手にそっと手を伸ばし…そして、握った。
「…姉ちゃん…」
今のあたしには…横で花火に夢中になってる二人の前では…これが精一杯。
「ありがと…ね」
少し驚いてる彼の表情に、にっこり微笑んで……そのまま、手を繋いだまま…
あたし達は花火大会のフィナーレを楽しんだ。
儚く散る花火とは違う……ずっと、ずっと傍に居られるように…と、手を繋いだまま…。
+++ Fin +++
DEAR 朔也様
えっと……お約束のリクエスト作品です。
何だか凄い展開にもってってくれたので…つい、蘭ちゃんにも少しですが行動させてみました。
ほんの少しだけどね?
さ、キャラの壁を越えた2人…この先に明るい展開はあるのかな?(笑)
最後に……駄文で、申し訳ない(汗)
そして、今回のクイズ参加ありがとうございました(にこっ)
流香